シンプルに恋愛映画を撮りたかった

                              熊切 和嘉

 とてもやりやすかったですね。寺島(進)さんはアテ書きだったので理想通り演じてくれた。
 「鬼畜(大宴会)」とは全く違う撮り方だったけど、今度は映画を知っているスタッフなのではぐらかしは通用しないから、
 正直にやるしかなかったというのがある。
 「鬼畜」から3年くらい経っていて、初めは映画を撮っている実感が沸かなかったんだけど、合宿しながら、北海道で
 夕暮れなどを撮っているうちに、スタッフと打ち解けていくことができた。
 プライベートでの失恋の痛手から、「鬼畜」は勢いで撮ったところがあったんです。
 だから、今回は冷静に、もう一度素直に探究心だけで、しかもシンプルに恋愛映画を撮りたかった。
 リズムで見せるのではなく、人間ドラマ、芝居の感情面の方を重視しましたね。
 ヒロインに菊地(百合子)さんを起用したのは、単純に立っているだけで、たたずまいが面白かったというのもあるけど、
 いきなりの本読みの時の彼女の集中力が凄かったから。
 いわゆるお姫様みたいなヒロイン像は撮りたくないので、女女(おんなおんな)した魅力だけじゃないところを見せたいなあ
 と思いました。
 初めての商業映画でしたが、あまり意識はしなかったです。
 逆にこういう地味な映画を撮れるのは今回しかないかなあと(笑)。
 でも、やはりプロのスタッフと仕事が出来たこと、自主映画とは違う作り方でやれた事が一番大きい。
 この手応えを忘れないうちに早く次を撮りたいですね。
 ラストは、観る人のその時の感情に委ねましたが、主人公が<穴>から出るにしろ出ないにしろ、人生は続いていくという
 感じにしたかった。
 今後もいろんなジャンルの映画を撮ってみたい。
 撮るときにはどうしても個人的な原動力が入らないと撮れないが、その部分は失くさないようにして映画を撮っていきたいですね。(談)

 
文化通信7月25日号より転載
熊切 和嘉 くまきり かずよし (監督・脚本・編集)
1974年9月1日北海道帯広市生まれ。高校時代から短編・中編映画を数本作り、中島貞夫監督が教授を務める大阪芸術大学映像学科映画コースに学んで98年卒業する。卒業制作『鬼畜大宴会』が「第20回ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード’97」で準グランプリを受賞。感性の鋭さ、溢れるエネルギーなど、映画評論家を始め、各界著名人から絶賛を浴び、ユーロスペース他全国ミニシアターでインディース・ムービーとしては異例の大ヒットロングラン上映を達成した。また、その過激な描写が話題となり、ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式招待、イタリア・タオルミナ国際映画祭グランプリ受賞など、海外でも高い評価を得た。その後、ミュージックビデオの制作を経て、PFFスカラシップ作品の権利を獲得、念願の最新作『空の穴』を完成させた。石井輝男監督の『一寸法師vs盲獣』ではメイキング監督と出演もしている。本作『空の穴』は第30回ロッテルダム国際映画祭で国際批評家連盟賞・スペシャルメンションを授与された。また、第51回ベルリン国際映画祭・ヤングフォーラム部門に正式招待された後、各国の映画祭からの招待が相次いでいる。ドイツ語字幕付プリントは、今後ベルリンを始め各地で一般公開も予定されている。

Amazon.co.jpアソシエイト



 @niftyシネマトピックス・オンラインにも監督インタビューがあります。≫more
 Slow Train interview (TALK TRAIN 第17回)≫more
 Midnight Eye interview (English)≫more


フィルム・シティのTOPへ